アパレル製品を手に取ったとき、ウエストのフィット感やフード紐の調整具合に注目したことはありませんか?これらの快適さや使い心地を支えているのが、「ゴム」という重要な副資材です。衣類におけるゴムは、見た目ではあまり目立たない存在ですが、実は着心地、デザイン、機能性に大きく影響する素材なのです。
適切なゴム選びは、製品の完成度を大きく左右します。本記事では、アパレル業界で広く使われているゴムの基本知識から種類、使用例、さらには近年注目されているカスタマイズゴムまで、幅広くご紹介します。
アパレル用ゴムの基本知識
まずは、アパレル用のゴムの素材と歴史について学びましょう。
ゴムの基本構造と素材
アパレル用ゴムは、単なる輪ゴムとは異なり、長時間の着用に耐え、肌に優しいよう設計された繊維構造を持っています。内部には「芯材」と呼ばれる伸縮性の高い糸が使われ、その周囲を綿やポリエステルなどの「カバー糸」で覆っています。この構造により、高い耐久性と肌触りの良さを両立しています。
芯材には、天然ゴム糸またはポリウレタン糸(スパンデックスとも呼ばれます)が一般的に用いられます。天然ゴムは反発性に優れ、ポリウレタンは安定した伸縮性と劣化しにくい特性を持つため、用途や求める機能性に応じて使い分けられます。
服飾に使用されるゴムの歴史
アパレル業界におけるゴムの歴史は、1820年代のイギリスから始まりました。当初は天然ゴムをそのまま使用していましたが、温度変化に弱く実用的ではありませんでした。
転機となったのは、1839年のチャールズ・グッドイヤーによる加硫(かりゅう)ゴムの発明です。この技術により、ゴムは温度変化に強くなり、より実用的な素材へと進化しました。
日本では明治時代後期からゴム製品の製造が始まり、大正時代には国産のゴム紐が服飾業界で使われるようになったと言われています。
代表的なゴムの種類
アパレルで使用されるゴムには、形状や製法によって様々な種類があります。
平ゴム – 安定感抜群の定番素材
断面が平らな帯状のゴムで、パンツやスカートのウエスト部分、袖口などに広く使われます。主な種類として「織ゴム」と「編みゴム」があります。
織ゴム: 経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を織り合わせて作られるため、引張強度が高く、伸縮時の幅の変化が少ないのが特徴です。しっかりとしたホールド感が求められる箇所に適しています。
編みゴム: 糸をループ状に編み上げているため、織ゴムよりも柔らかく、通気性があり、肌当たりが優しいという利点があります。比較的薄手で、直接肌に触れる部分にも使われます。
平ゴムはカラーバリエーションも豊富で、機能性だけでなくデザインのアクセントとしても活用されます。
丸ゴム- アレンジ自在のマルチプレイヤー
断面が円形のゴムで、パーカーのフード紐、スポーツウェアのウエスト調整、ヘアアクセサリーなど、多岐にわたる用途で使われます。「製紐(せいちゅう)タイプ」「横巻(よこまき)タイプ」「リリアンタイプ」といった製法の違いにより、耐久性や質感、伸縮性が異なります。
丸ゴムの太さは直径1mm程度の細いものから10mmを超える太いものまで様々で、用途に応じて選択します。細いものはデリケートな部分の調整用に、太いものはしっかりとしたホールド感や装飾的な役割が必要な箇所に使用されます。結び目が解けにくく、調整機能にも優れているため、様々な場面で重宝されています。
コールゴム- 高い伸縮性とパワー
コールゴムは、一般的にインベルゴム(強力ゴム)の一種で、芯ゴムに糸をコイル状に巻き付けた構造を持ち、非常に高い伸縮性とパワーがあります。製品によっては、300%から400%といった高い伸縮率を持つものもあります。
その特性から、競泳水着やアスリート用のコンプレッションウェア、医療用サポーターなど、身体へのフィット感と動きへの追従性が特に求められる製品に使用されます。耐久性にも優れ、塩素や紫外線に対する耐性を持つものもあり、高機能素材として注目されています。
特殊なゴムとデザイン性
基本的なゴム以外に、特定の効果やデザイン性を高めるための特殊なゴムがあります。
シャーリングゴム
生地にギャザー(ひだ)を寄せるために使われる細いゴム糸、またはゴム糸が織り込まれたテープ状のゴムを指します。ブラウスのウエストや袖口、子供服などに使用され、縫い付ける際に生地を縮めることで、美しいドレープやフィット感を生み出します。
シャーリングゴムは特に女性服や子供服で多用され、フェミニンなデザインやリラックス感のあるスタイルに欠かせない素材となっています。袖口、ウエスト、ネックラインなど、様々な部位に使用でき、着用者の体型を美しく見せたり、着心地の良さを向上させたりする効果があります。
オリジナルデザインのゴム
現在のアパレル業界では、ブランドの独自性を高めるため、オリジナルデザインのカスタマイズゴムを製作する動きが活発です。色や幅はもちろん、ブランドロゴや特定の柄を織り込んだり、プリントしたりすることで、他にはない特別なゴムを作ることができます。
以前は大量ロットでの注文が基本でしたが、近年では小ロットから対応可能なメーカーも増えており、中小ブランドや個人デザイナーでもオリジナルゴムを導入しやすくなっています。これにより、副資材であるゴムも、デザインの重要な要素となってきています。
まとめ
アパレル製品で使用されるゴムは、単に伸縮機能を提供するだけでなく、着心地、デザイン性、そして製品の耐久性といった多くの面で重要な役割を担っています。平ゴムの安定したフィット感、丸ゴムの多様な用途への対応力、コールゴムの高機能性など、それぞれのゴムが持つ特性を深く理解し、適切に選択することが、より良い製品作りへと繋がります。
さらに、シャーリングゴムのような特殊な技法や、オリジナルデザインのゴムを活用することで、製品に独自の魅力と付加価値を与えることも可能です。
ゴム選びにお悩みの場合は、ぜひ専門知識を持つダイリンにご相談ください。お客様に最適な素材をご提案し、製品価値の向上をサポートいたします。